インボイス制度実施でやっぱり混乱と困惑の1ヶ月。〝来年の確定申告は地獄になる〟これだけの理由【篁五郎】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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インボイス制度実施でやっぱり混乱と困惑の1ヶ月。〝来年の確定申告は地獄になる〟これだけの理由【篁五郎】

公正取引委員会の報告を聞く登壇者とオブザーバー(税理士)

 

■インボイスについて公正取引委員会に相談しても無駄?

 

 その後、公正取引委員会からの報告と質疑応答へ移ったが、報告については残念としか言い様がなかった。

「免税事業者の方々が不当な不利益を受けないように関係省庁と共同でインボイスQ&Aを公表し、免税事業者の取引の停止や一方的に著しく低い取引対価を設定してこれに応じない相手方との取引を停止した場合にはですね、問題となる恐れがあることを明らかにした」

「インボイスによる独占禁止法違反が40件報告され、違反した事業者には注意喚起をした」

 事前に公正取引委員会に送っていた質問についても、いつもの通り「個別具体的な事案に基づいて」という回答に終始。会場が落胆した雰囲気に包まれそうな中、会見に出席していた福島伸享衆議院議員(無所属の会)が公取に食い下がる。

「そういう難しいことは多分わからないと思うんですよ。このインボイス制度開始1ヶ月で意識調査に寄せられた声ってありますけども、例えばこれはどうですか」

 このように語り、STOPインボイスに寄せられた声を具体的として挙げた。

「フリーランスのSEです。『登録は強制しないが、登録しないなら契約は継続しない』と元請けから言われ、事実上の強制だと困惑しました。年末までの契約なので年明けからはどうなるのか不安です」

 しかし公取は「正直判断しがたい」と回答を拒否。すると福島議員の声のボリュームが上がった。

「これしかないんですよ。多くやればやるほど独禁法に引っかかる可能性があるから、この言葉しか言わなかったりするんです」

 強い口調で、再度公取へ聞くが、それでも公取側ははっきりとは答えない。

「その言葉だけではなく、それまでの取引のお互いの力関係とか、そういった色々な事情を判断して、例えば強制ということがあったのか、なかったのかということが判断される」

 あくまでも言葉だけではわからないというスタンスを崩さずに福島議員は食い下がる。

「これだけで判断できないんだったら、もう独占禁止法は役に立たないってことなっちゃいますよ。インボイス登録しないなら契約は継続しないって言われても、それが独占禁止法違反じゃありませんという可能性があると言われるのだったら、独禁法とか公取とかそんな難しいことを言われてもしょうがない。結局ダメなんじゃないかってことになると思う。だからここで答えるべきことは、言われたことが独禁法違反になるのか、ならないのか。ならない可能性があるならそれで結構なんです」

 公取はあくまでも言葉以外の部分も含めて調査しないと判断できないと続けるばかり。すると、会場の後方から大きな声が上がった。

 

公正取引委員会へ質問をする咲野俊介VOICTION共同代表

 

 VOICTION(インボイスに反対する声優有志の会)の共同代表・咲野俊介だ。司会からマイクを渡されると、会場の前まで移動し、改めて公取へ問うた

「この一言だけはわかりませんと今おっしゃいましたよね? 免税事業者は、この一言に振り回されてるんですよ。ここに、どんな理由があるかなんて免税事業者にはわからないんですよ。その辺どうお考えですか」

 しかし公取の答えは変わらない。咲野氏も引き下がらず一つひとつ質問を返していく。それでも公取は具体的な回答をしない。さらに司会をしていた声優の福宮あやの氏からも関連した質問をされる。だが、公取は態度を変えることなく回答を事実上拒否し続けた。

 業を煮やした福島議員が再びマイクを握る。「あのね、この事例が取引先との関係性がわかるから」と述べて、アンケートに寄せられた声を紹介した。

「企画・制作の仕事です。プライベートでも仲の良い社長から『未登録の相手とは今後、取引をしない』と言われた。免税事業者との取引は複雑すぎて経理が対応できないとのことで、交渉の余地はなかった。激変緩和措置がむしろ取引排除を促進していると感じた」

 福島議員が、「この事例は独禁法違反にはなりませんよね。プライベートでも仲いいから」と聞いても、公取は同じ回答を繰り返すばかり。通常の感覚ならば、仕事をもらっている方が下になるが、公正取引委員会にはわからないらしい。

 そこに元自民党衆議院議員で税理士の安藤裕氏が助け舟を出し、公取に実際に独禁法や下請法に対応している公取職員の人数を聞くと驚きの数字が出てきた。

 なんと、全国で僅か数十人。要するに100人にも満たない人数で対応しているという。

閣僚は、国会で「インボイスで免税事業者が取り引き先から不当な扱いを受けた」「インボイス関連で下請法や独占禁止法違反の恐れがないか」という質問をされると、「公正取引委員会に相談」という答弁を繰り返している。その公正取引委員会では、たった数十人しか対応できないのであれば、まともな応対は不可能だ。救済措置は絵に画いた餅であった。

 現在、インボイス関連のコールセンターも開設されているが「繋がらない」といった声しか聞かない。これではインボイスについて相談できない。独禁法や下請法について対応する職員を入れると、3000人いるというが実際には役に立っていない。このやり取りで行政がまともに機能していないことは明らかになった。

次のページSTOPインボイスから財務省・国税庁・公取・中小企業庁へ送られた要望の中身

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篁五郎

たかむら ごろう

1973年神奈川県出身。小売業、販売業、サービス業と非正規で仕事を転々した後、フリーライターへ転身。西部邁の表現者塾ににて保守思想を学び、個人で勉強を続けている。現在、都内の医療法人と医療サイトをメインに芸能、スポーツ、プロレス、グルメ、マーケティングと雑多なジャンルで記事を執筆しつつ、鎌倉文学館館長・富岡幸一郎氏から文学者について話を聞く連載も手がけている。

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